飛行機が旋回するためには、エルロンを使って機体を傾けることによって、そのバンク角で旋回する半径が決まってきます。このエルロンのお話は「背面飛行の難しさ - 4シップインバート」でも記しています。
ラダーは、飛行機が水平のとき、機首を左右に振るようにして向きを変えることが一番単純な使い方です。ですが、機体を傾けるような大きな方向転換には使いません。機首の向きの調整に使います。例えば、自動車で横風の高速道路を走っているとき、あなたはハンドルを風向きの方に力を入れて押さえているでしょう。けれども、それはハンドルを切って方向を変えているのではなく、車をまっすぐに走らせるために力を加えているのです。ラダーもこのような横風での方向調整に使ったりします。ブルーインパルスでは、向きを変えるだけでも、もっと積極的にこのラダーを使います。フィンガーチップ隊形で離陸し、上がった直後にダイヤモンド隊形に変わる1ー4番機のフォーメーションテイクオフでは、4番機はラダーを思いっきり使って、端から1番機の真後ろに横滑りするように移動します。
ラダーは操縦席の足先(車で言えばアクセルとクラッチペダルの場所)のラダーペダルを踏むことによって操作し、その踏む量によって左右の舵角を決めます。左のラダーペダルを踏むと左側に可動翼が倒れ左に機首を向け、右を踏めば右を向きます。
さて、ブルーインパルス仕様のT-4は、このラダーの舵角がノーマルT-4で5°に対し10°まで大きく取れるようになっています。これは曲技飛行をするためにラダーを積極的に使った操舵が必要になるためです。その代表的な課目が6番機のスローロールです。スローロールでは、ゆっくりと傾いていく機体の機首が下を向かないよう、ラダーを使って操舵しています。真横を向いているときは、ラダー角が最大になります。難しいのは傾きが常に変化し、それに合わせて機首の向きを調整していることです。360°のエルロンロールをゆっくり行なうT-4において、最初水平から右に傾いていくときに左足をゆっくり踏み込み、真横で最大、そして背面になっていくにしたがってラダーを戻していきます。そこから水平に戻す際には今度は右足をゆっくり踏んでいき、真横からまたゆっくり戻していきます。足はちょうどゆっくりと足を自転車のペダルを一周こいだような、そんな力の入れ方で左右のペダルを踏んで戻します。
操縦桿は傾きの速度を決め、それに合わせてラダーで姿勢をまっすぐコントロールしていくスローロールは、T-4の性能とパイロットの操縦技術が一体となったソロの代表課目です。
5番機が180°スローロールする周りを、6番機が扇を開くように機体をひっくり返していくハーフスローロール。この課目で6番機は、さらに操縦桿の前後方向の操作(エレベータ)も加えて、フラップ以外のすべての可動翼の操舵を絶妙にミックスして、あの動きを完成させます。
と、ここまで書いてみて、松島航空祭で6番機のPOPEYEさんに聞いてみました。
- ゲームだったらそんな感じでいいかもしれない。
- 実際のT-4の機体では、最初はラダーを思い切り踏むけれど、だんだんちょっとだけ踏むようになる。
- 背面を超えてもまだ右を踏んでいて、操縦桿を徐々に引くことによって背面で機首が上を向くようにしている。
- 言葉では説明しきれなくて、最後は身体で覚えていく操舵。
と、だいたいこのような内容のコメントをいただきました。
実機では頭で考えるようにはいかないようですね。
スローロール系の課目は、他国の戦闘機パイロットに航空自衛隊の戦闘機パイロットの実力を見せるために開発された、玄人がみても難しい課目と言われています。
<Imachan>