背面飛行になると、飛行機の操縦特性が変わります。普通に上を向いて飛んでいるとき、操縦桿を倒した方向にバンクして(傾いて)、その角度の大きさに応じて曲がっていきます。大きくバンクするほど鋭く曲がっていきます。丁度オートバイで車体を傾けた分だけ曲がっていくのと似ています(オートバイは重心が内側に移動する量によって曲がるため原理は異なります)。
ところが、背面飛行になると、操縦桿を倒した方向と逆の方向に曲がっていってしまいます。それは主翼の傾いた方向に機体が曲がるためです。下の図を見てください。操縦桿は右に倒しているのに、曲がっていく方向は左です(図はこちら側を向いているので、進行方向でいくと背面で左に倒すと右に曲がっていく状態)。図では、上を向いた機体と主翼の傾きは同じになっていることがわかります。普通上を向いたときには右に倒せば右、左に倒せば左、というオートバイの感覚が通用しなくなるのが、背面飛行です。きっと、天井に吸い付くオートバイがあったら、曲がりたい方向と逆に車体を倒し、外側に頭を振られるように曲がっていくイメージです。(ホントにそう動くかは不明です。笑)
世界的に見て高いレベルの操縦技術を持っている航空自衛隊の戦闘機パイロットといえども、この背面飛行は大変難しい飛び方なのです。なぜなら、空中戦において宙返りや急旋回をすることはあっても、背面飛行で真っ直ぐ飛び続けることなどないからです。映画トップガンでトム・クルーズが背面飛行で敵機の真上に被さるように飛ぶシーンがありましたが、あれは大ウソです。空中戦では、あのように真っ直ぐ飛んでいる暇などないのです。空中戦は、犬が喧嘩でお互い相手の尻尾をつかむためにクルクル回り合う様子に似ていることから、ドッグファイトと呼ばれます。相手の後ろに回り込むために、激しい旋回と宙返りを繰り返すのが、空中戦の飛び方なのです。
難しい背面飛行でゆっくりと密集したダイヤモンド隊形を形成し、真っ直ぐ飛び続けて、徐々に間隔を開いて元に戻す4シップインバートは、究極のアクロバット飛行といえましょう。1番機と2番機の2機だけが背面飛行する課目をダブルファーベル。2、3、4番機の3機が背面飛行する課目を3シップインバートといいます。3シップインバートは、風の強い日など、編隊長機の1番機がしっかりと真っ直ぐ飛ぶ必要があるときに、今も行われることがあります。T-4ブルーインパルスは、ダブルファーベルから3シップインバートを経て、4シップインバートへと進化してきました。デリケートな背面飛行の操縦において、背面飛行する機数が増えるほど、緊急回避が難しくなります。どれか一機に鳥がぶつかったとき、その1機がふらついても、その他の機体がスムーズにバラけて衝突しないだけの操縦技術を習得しているから、4シップインバートが成立するのです。
有名な米海軍のブルーエンジェルスは、今でもダブルファーベルを行っています。アクロバットチームによって、その見せ所は違います。単純には比較できないのですが、ブルーインパルスがデリケートで巧みなアクロバット飛行を披露してくれていることは確かなのです。
<Imachan>