監督の坂本訓広氏は、昨年より発売されたサポーターDVDの監督としても知られている。パイロットの最新動向を収めたサポーターDVDに対し、「SUPER
ROLLING IN THE SKY - BLUE IMPULSE」はブルーインパルスのアクロバット飛行を徹底的に収めた空撮映像集である。空撮を行ったカメラマンは、総合監修として企画にも参画した、航空写真の巨匠・徳永克彦氏。二人は、1983年に坂本氏が米ネリス空軍基地にサンダーバーズを収録しにいった際、渡米していた徳永氏をサンダーバーズから紹介されたことがきっかけで出会っている。
その翌年から一緒に映像作品を制作するようになり、媒体はビデオからレーザーディスク、DVDへと遷移してきた。レーザーディスクの航空映像の秀作として知る人ぞ知る「ROLLING
IN THE SKY」シリーズも、この二人による作品であった。徳永氏曰く「坂本さんは間違いなくこの業界でもっとも才能に溢れた監督。」という坂本氏と徳永氏のコンビは、最新のテクノロジーを使って最新のブルーインパルスを映像美として具現化してくれた。
先に発売されたSUPER ROLLING IN THE SKY - Frecce Toricoloriと同じように、管制塔との交信をバックにした離陸シーンを滑走路端の正面から捉えた映像で始まる。エンジンランナップから滑走して離陸し、フィンガーチップ隊形から4番機が


《松島基地上空で行われたビデオミッション》
1番機の真後ろに滑り込んでダイヤモンド隊形に変換し、真上を掠め飛ぶシーン。この最初のシーンひとつとっても無駄のない編集がなされており、凝縮されたブルーインパルスの世界を予感させる。各課目の空撮映像、訓練でのウォークダウンから搭乗してエンジンチェックまでのパイロットとコックピットの計器映像、航空祭のシーンでは常連ファンとのサイン会の光景も収め、金華沖では高高度から雲間を狙ってデルタループやデルタロールを広角で見せる。本編とは別に収録される第一区分のCG解説映像には、須藤1尉(IPPEIさん)によるナレーションも収録されている。
T-4ブルーインパルス(第11飛行隊)は平成19年度に隊設立12周年を迎える。その直前に発売される本作品は、T-4ブルーインパルスの節目の姿を映像化した傑作であり、日本の航空史に欠かすことのできないブルーインパルスの今を、歴史に残る映像として存分に伝えてくれる。
坂本監督と徳永カメラマンの映像作品にとって欠かせない存在がもうひとつ。サウンドデザインを手掛けた株式会社1991である。今回の映像はハイビジョン撮影であり、4本のマイクで立体音源としてサウンドを収録している。大きな画面で、5.1chを再生できるホームシアターのような機材で見ることができたら、本作品の奥行きを余すことなく体感することができる。
リリースに先立ち、ジェネオンエンタテインメントの本作品プロデューサー・原沢修一氏と共同制作会社の株式会社キッズ・滝澤正治プロデューサーの協力により、越中島の制作スタジオで試写の機会を得た。5.1chで再生された本作品の迫力は、この一作のために自宅リビングルームをホームシアター化したい、とそう思わせるものであった。取材に応じてくれた徳永氏も、「なるべく良い機材で観ていただきたい。」と語っていたのがうなずける。
午後からのフライト、POPEYEさんのラストフライトでは、徳永氏が6番機後席に同乗して空撮を行っている。徳永氏は、世界で唯一右旋回を基本とするブルーインパルスのターンを撮影するために、ビデオカメラのLCDモニター越しに右旋回の編隊長機を追随するため、カメラを逆さにひっくり返して、

《空撮を行った徳永克彦氏》
LCDモニターが右側に来るようにして撮影した。ブルーインパルス特有の右旋回を撮影するためのこのアイデアは徳永氏によるもの。映像は編集でひっくり返せばいい。ファインダーで覗かないのか、との疑問には、「酸素マスクがぶつかるので覗けない。」とのことだ。また写真との違いはとの質問には、「一連の流れを前後含めて撮影し続けるビデオと、撮る構図を決めてそこに持っていく写真の違い」があるそうだ。デジタル一眼レフで撮った写真が動いているようなハイビジョン撮影の映像。デジタル一眼レフの高画素化はビデオカメラ以上に進んで行くだろう。それでもデジタル一眼レフで撮影した静止画が無意味なものになりそうな予感を感じさせるのは、坂本監督の構成と演出の才能によるものと思われる。それでも天候の関係で狙ったカットを存分には撮れなかったという。今後もコンスタントに進化するブルーインパルスの映像作品をリリースしてほしい。そしてHD出力でのフルハイビジョン作品も将来的に期待したい。