戦技とブルー(その2、バレルロール、コンバットピッチ)

|  ブルーインパルス雑学  |
 ブルーインパルスのアクロバット飛行は、戦闘機が空中戦で使う操縦技術(戦技)とどんな関係があるのか。方向転換に続いて、今回は速度コントロールについて、紹介しましょう。
 飛行機は、高速で連続移動できる移動体であることは言うまでもありません。ゆっくり見える旅客機でも離陸速度は新幹線よりも速いのです。俊足の代名詞である戦闘機の加速は強烈で、離陸後に機首(ピッチ)を上げないと、あっという間に音速突入する機種もあります。一方で、減速は大の苦手です。軍用機の多くは、なんらかのエアブレーキを装着していますが、編隊飛行での微妙な速度コントロールは可能ですが、大幅に速度を落とすためには役不足です。
 戦技の観点から、速度エネルギーは大変重要です。でも、相手に後方に付かれた場合、瞬間的に速度を落とせれば、追随する敵機は自機を追い抜いて前方に出てしまいます。水平飛行から操縦桿を少し引いて機首を上げ、次に操縦桿をどちらかに倒してロールを行うと、樽の内周を回るような螺旋軌道となります。その際、空気抵抗と位置エネルギーの変化から、速度を瞬間的に落とすことが可能になります。でも、速度が落ちすぎると、再度、自分が不利な立場に逆戻りしてしまいますから、ロールを開始時の機首の角度に注意する必要があります。
 ブルーインパルスの課目では、“コークスクリュー”が代表的ですね。背面で水平飛行する5番機の周囲を3回転半している6番機は、このバレルロールを行っています。最初の機首上げの角度は大きめで、速度はかなり抑えられた状態になっています。“ラインアブレストロール”も、1番機から3番機が横一直線に並んだ状態で、大きなバレルロールを行っています。
 また、天候が悪くて雲が低い場合、垂直系の課目が水平系の課目に変更されます。そんな時には、バレルロールを応用した課目が数多く実施されます。“トレールトゥダイヤモンドロール“は4機が一直線に並んだトレイル編隊から、バレルロールを行いながらダイヤモンド編隊に移行する課目です。”ロールバックトゥアローヘッド“では、ダイヤモンド編隊の2番機、3番機がバレルロールしながら、速度コントロールを行って、編隊内でのポジションチェンジを行っています。こちらは、編隊飛行なので、機首上げは小さめで、速度変化は最小に留められています。
 もう一つ、速度コントロールに使用されるのが、コンバットピッチ(コンバットブレイク)です。軍用機の場合、速度を低下させる必要がある着陸へのアプローチは、最も敵に狙われやすい瞬間です。そのため、基地上空まで高速で進入し、機首を上げながら急旋回することで急激に速度を落とし、着陸態勢に迅速に移行します。航空祭で機動飛行を行った戦闘機は、必ず実施する操縦法です。ただ、現在では、有事の最中に自軍基地の近くに敵がいるケースは想定しにくく、次の出撃に備えて短時間で着陸する事が主目的と思われます。これを応用したのが、1番機から4番機が最後に実施する“ローリングコンバットピッチ“です。ブルーインパルスの場合は、ロールしながら旋回するので、”ローリング”の言葉が追加されます。4機のエシュロン編隊から、順にロールしながら旋回する様はとても綺麗で、均等間隔に描かれる4本のスモークは、フォトジェニックな光景です。

<Studio-T>